生活保護訴訟:国が求めた「コピペ敗訴判決」を最高裁は拒否。「ゆがみ調整」全削除の理由は?

国による2013年以降の生活保護費大幅減額の取り消し等を求める「いのちのとりで裁判」。10月23日、最高裁は秋田・兵庫・佐賀・熊本の4訴訟について原告勝訴判決を言い渡しました。9月の口頭弁論で国側は前回同様の「コピペ判決」を求めていましたが、結果は異なるものでした。
稲葉剛 2026.10.27
誰でも

国が2013年~15年に生活保護基準を大幅に引き下げたのは違法だとして、全国各地の生活保護利用者が減額処分の取消し等を求めている「いのちのとりで裁判」。

今年10月23日、最高裁第三小法廷(林道晴裁判長)は、高裁で原告が敗訴した4地域(秋田・兵庫・佐賀・熊本)の上訴審において、引下げを違法と判断し、減額決定を取り消す逆転判決を言い渡しました。

一連の「いのちのとりで裁判」では、昨年6月27日、今回と同じ最高裁第三小法廷(宇賀克也裁判長)が引き下げを違法とする原告勝訴判決を言い渡しています。宇賀裁判長はその後、退官したものの、今回判決を出した第三小法廷の裁判官5人のうち4人は、昨年の判決にも名前を連ねた裁判官でした。そのため、今回の判決は前回の判決の「コピペ」になるのではないかとの予想もありましたが、結果はそうはなりませんでした。そこに今回の判決のポイントがあります。

「コピペ判決」を強く求めたのは、国側です。9月29日の最高裁口頭弁論で国側の代理人は昨年6月の最高裁判決(愛知訴訟・大阪訴訟の判決)に沿った内容の判決を出してほしい、という異例の要望をおこないました。これは「敗訴でよいから、内容面で前回以上の責任追及はやめてほしい」と懇願したことを意味しています。

国はなぜ「コピペ判決」を求めたのか

国側がこのような主張をしたのは、国が昨年の最高裁判決を都合よく解釈し、差額の一部しか補償しないとの「対応策」を強行したことと関係しています。昨年の判決で最高裁は国が引き下げの根拠とした「デフレ調整」を違法と認定しましたが、その一方で、もう一つの減額の根拠とされた「ゆがみ調整」(低所得者世帯の消費実態との比較で保護世帯間のバランスを調整するもの)を秘密裡に2分の1に処理したことについては適法と判断しました。この時は宇賀裁判長のみ、少数意見として「ゆがみ調整」も違法としましたが、多数意見は適法との見解でした。

行政訴訟では行政の決定が違法か適法かを判断する際、決定の中身そのものではなく、決定に至る「過程及び手続に過誤、欠落があるか否か」に審査を限定するという「判断過程審査」という手法が用いられます。「いのちのとりで裁判」について言えば、「デフレ調整」が違法であれば、他の根拠がどうであろうと減額決定自体が違法であり、全てが取り消しの対象となるということになります。しかし、国は複数の根拠の一部が適法と判断されれば、その部分は有効だと言わんばかりの主張で、全額補償しないという方針を正当化しました。

昨年の最高裁判決に関する国の「独自の解釈」は三権分立を無視するものであり、論理的にも破綻しているものですが、その「独自の解釈」を押し通すため、二度目の最高裁判決でも全く同じ内容の判決を出してほしいと国は考えたのでしょう。

では、今回の判決はどうだったのでしょう。特に現在の裁判長である林道晴裁判官は、前回、わざわざ「ゆがみ調整」の2分の1処理について「不合理であるとはいえない」という「補足意見」を書いていた人物だったので、特に注目されました。

最高裁に入廷する4訴訟の原告と弁護団、支援者ら

最高裁に入廷する4訴訟の原告と弁護団、支援者ら

最高裁は「コピペ」を拒否。「ゆがみ調整」を全削除

結果は、「コピペ」ではなく、「ゆがみ調整」への言及をすべて削除するという内容変更でした。10月23日の判決文は、デフレ調整については昨年の判決を踏襲し、「違法」と認定する一方、昨年の判決にあった「ゆがみ調整」に関する言及はすべて削除されていました。

原告の弁護団はこの判決について、「最高裁が、『ゆがみ調整』を含む減額処分のすべてを取消すことで、判決後の国の対応を追認しない姿勢を明確に示したものと評価できる」との声明(後段に全文掲載)を発表しました。

判決後の報告集会で佐賀訴訟弁護団の甲木美知子弁護士は、「口頭弁論の時に『ゆがみ調整』について、その時の判断過程を審査するのではなくて、国がいろいろと後付けで理由を変遷させてきたものを最高裁が後付けでその正当性を安易に認めてしまったら、もうそれは『判断過程審査』ではなく、結果だけを審査しているということになってしまう。だから『ゆがみ調整』を後付けで正当性を認めるようなことはしないでくださいと言いました」と発言。

甲木弁護士は、今回の判決を「『ゆがみ調整』について何も言及しなかったというのは、裁判所が『ゆがみ調整』を追認することをしなかった、『ゆがみ調整』の正当性をあえて認めなかったと言うことができると思っています」と評価しました。

いのちのとりで裁判全国アクション共同代表の尾藤廣喜弁護士も、記者会見で「前の判決で最高裁は書かなくてもいいことを書いてしまった。『ゆがみ調整』は問題ないと書いてしまったので、はっきり申し上げてそこを厚生労働省につけ込まれてしまった」と指摘。

その上で、「9月の口頭弁論で私たちはその点を強調して『司法がなめられています』『そんなことでいいんですか』と問いただした。最高裁は自分たちの判決の影響力というものをちょっと見誤っていたので、修正しなければならないと思ったんじゃないか。それが今回の判決だったと思います」と解説しました。

記者会見では、全額を補償しないという国の決定に対して、全国各地の生活保護利用者が集団で不服審査請求運動をおこなっていることも報告されました。

国の「逃げ道」をふさぐ意味を持つ今回の最高裁判決を国はどう受け止めるのでしょうか。

改めて、早期の全面解決を改めて求めていきたいと思います。

最高裁前にて「旗出し」をおこなう4訴訟の原告と弁護団、支援者

最高裁前にて「旗出し」をおこなう4訴訟の原告と弁護団、支援者

弁護団による共同声明全文

いのちのとりで裁判(生活保護基準引下げ訴訟)、2度目の最高裁勝訴判決を受けた共同声明

                          2026(令和8)年10月23日

                                                      

いのちのとりで裁判秋田・兵庫・佐賀・熊本訴訟 原告団・弁護団

いのちのとりで裁判全国アクション

生活保護引き下げにNO!全国争訟ネット

本日、最高裁判所第三小法廷(林道晴裁判長)は、2013年から行われた史上最大の生活保護基準引下げ(以下「本件引下げ」)を理由とする保護変更決定処分の違法性を争う集団訴訟(いのちのとりで裁判)のうち、控訴審において原告側が敗訴していた秋田・兵庫・佐賀・熊本の4訴訟について、控訴審判決を変更し、処分の取り消しを命じる判決を言い渡した。本判決は、昨年6月27日の大阪・愛知訴訟判決に続く、2度目の最高裁判決である。

国は最高裁判所が下した判断に従い、全ての生活保護利用者への謝罪や、本件引下げ前の基準による保護費との差額を全額支給して被害の全面回復等をなすべきである。ところが国は、真摯な謝罪も、中身のある協議も行うことのないまま、あろうことか、別の理由を持ち出して再減額をして補償額を半減させるとともに、原告らについては再減額分を「特別給付」(贈与金)で穴埋めし原告・非原告を分断するという暴挙に出ている。国は、大阪・愛知判決確定後も、被告自治体に各地の訴訟で争い続けさせ、高裁で実に19連敗を喫して恥じるところがない。

国は、被害全額の支給をすべきところ、本年4月以降の「保護費追加支給」はその一部に過ぎない。しかも、保護が廃止された世帯については、申出を必要としながら十分な周知をせず、世帯全員の戸籍謄本の提出を求め、受付期間は1年間に限るなど被害の全面回復に背を向けた対応を続けている。国が全面解決を引き延ばす中、最大時1022名であった原告のうち4分の1を超える279名が既に亡くなってしまった。大阪・愛知判決後にも26名の原告が亡くなっているのである。こうした国の暴挙に対し、私たちは、9月29日行なった本事件の口頭弁論において、裁判所に行政のこのような対応を許さず、昨年の判決が「判断の過程及び手続に過誤、欠落があったということはできない」とした「ゆがみ調整」の違法性を含め、本件引下げの違法性をより厳しく断罪する判決を言い渡すことを強く求めた。

本判決は、「デフレ調整」の違法性については昨年の判決を踏襲したものの、「ゆがみ調整」に関する判断部分を全面削除した。これは、最高裁が、「ゆがみ調整」を含む減額処分のすべてを取消すことで、判決後の国の対応を追認しない姿勢を明確に示したものと評価できる。

本件引下げについて、最高裁が2度にわたって違法の判断を示したことを国は重く受け止めるべきである。私たちは、本日の最高裁勝訴判決を受け、目下国が行なっている不誠実極まりない対応に強く抗議するとともに、国に対し、判決に従い、被害の全面回復を速やかに行なうことを求める。

                                                              以上

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