「路上、お邪魔ですか?」展と『路上脱出・生活SOSガイド』をめぐる対話

金沢21世紀美術館で「路上の公共性」をテーマにした「路上、お邪魔ですか?」展をめぐって、キュレーターの方と対話をおこないました。その記録です。
稲葉剛 2026.08.29
誰でも

金沢21世紀美術館で、「路上、お邪魔ですか?」という展覧会が開催されています。

キュレーターの本橋仁さんによると、この展覧会は「路上の公共性、あるいは公共空間とは何か」をテーマに、現代美術だけでなく、歴史的資料、テレビゲームや銭湯、大道芸にも焦点を当て、紹介しているとのことです。1990年代に新宿駅の西口地下空間に存在した路上生活者のコミュニティ「新宿ダンボール村」を撮った迫川尚子さんの写真も展示されています。

展覧会の案内文では、2020年に渋谷区で路上生活をしていた女性の命が暴力により奪われた事件にも言及。この事件の加害者が発したとされる「彼女が邪魔だった」との言葉を引用した上で、「路上は、所有が曖昧であるがゆえに公序が強調され、時に他者の主観的ルールが衝突する息苦しさを孕んだ空間でもあります。2020年の事件は、公共性の意味を取り違えたときに起こりうる取り返しのつかない暴力を私たちに突きつけました」との問題意識が書かれています。

私が貧困問題に関わるようになったのは、1994年、「新宿ダンボール村」の住民とともに東京都による強制排除に反対する運動を始めたのが最初のきっかけでした。路上生活者が急増した90年代半ばから2000年初頭にかけては、各地で行政による強制排除が発生。若者らによる路上生活者への襲撃事件も多発しましたが、それらはまさに路上の「公共性」をめぐる問題として現れました。

私たち支援者は路上で生活する当事者とともに排除に反対するだけでなく、炊き出しや夜回り、医療相談会などの支援活動を展開。アーティストやミュージシャンとコラボした様々なイベントも企画してきましたが、これらの活動もすべて「路上」を主なフィールドとしておこなってきました。

こうした経験から、「路上」を正面から取り上げた本展覧会に私は注目をしていました。

『路上脱出・生活SOSガイド』への言及

ところが、金沢での展覧会を見に行った知り合いを通して、展覧会の会場で販売されている「特報」(図録収録予定の内容を一部紹介した新聞)の中で、支援活動に関する言及があることを知りました。

関係者による座談会の冒頭部分で、本橋仁さんが路上には「自由」と「邪魔」が共存しているとの認識を語っているのですが、「路上」には「ネガティブなイメージ」もあることの代表例として、ビッグイシューの『路上脱出・生活SOSガイド』に言及しているのを見つけたのです。

「路上とは何かを考えると、現代美術側からの視点としては、イリーガルなものと結びついた自由で権力の及ばないアジールといったイメージがあります。一方で、路上生活者の方に配られる『路上脱出・生活SOSガイド』(ビッグイシュー基金編、路上脱出・生活SOSガイド作成委員会、二〇一八年)に象徴されるように、路上とは脱出するものであるというネガティブなイメージも有しています」

[特報]路上、お邪魔ですか?冒頭対談より

路上には「自由」と「邪魔」が共存しているという構図の中で、『路上脱出・生活SOSガイド』などの支援活動が「自由」の対極にある側、つまり排除を志向する「邪魔」側にあるかのように書かれていることに私はショックを受けました。

『路上脱出・生活SOSガイド』が「路上とは脱出するものである」というネガティブな見方に基づいて作成されている、あるいはそういう見方を助長するものと受け取られているなら、大きな誤解です。

ビッグイシューや各ホームレス支援団体は、いったん路上生活になってしまうとそこから抜け出せなくなる社会構造を問題視して、当事者がホームレス状態から抜け出すための支援を続けてきました。

しかし、その支援は「路上」をネガティブに評価するものではなく、当事者に対し、「早く路上生活から抜け出しなさい」と促したり、誘導したりするものではありません。むしろ、「路上」で生き抜いてきた当事者の知恵や工夫、そこで育まれてきた文化を尊重することを支援の基本に置いてきました。

『路上脱出・生活SOSガイド』には、路上生活の当事者が「食べ物がない」「体調がわるい」「泊まるところがない」「仕事を探したい」「今すぐ仕事がしたい」「生活保護を申請したい」などと思った時に、どういう選択肢があるのかということを示す官民の支援策の情報が具体的に書かれています。

ガイドは大阪編、東京23区編、札幌編、名古屋編など地域ごとのバージョンが作られており、2009年以降、累計約15万部が無償配布されてきました。

ガイドは各支援団体の夜回りや炊き出しの場だけでなく、お寺や教会、図書館でも配布してもらっています。

『路上脱出・生活SOSガイド』東京23区編(2024年8月31日改訂6版)

『路上脱出・生活SOSガイド』東京23区編(2024年8月31日改訂6版)

ガイドは路上で暮らす当事者が路上にとどまりたいと思う場合はその意思を尊重しつつ、その人がその人のタイミングで「路上から脱却したい」と思った時にどういう選択肢があるかをできるだけ多く提示して支援につなげることを目的としています。

本橋仁さんとの対話、そして展示の「追加」

「特報」の内容に違和感を持った私は、写真家の迫川尚子さんを通して、本橋仁さんにメールで連絡を取り、オンラインで話し合いを持つことにしました。話し合いには迫川さんのおつれあいの井野朋也さん(新宿BERG店長)も同席してくれました。

オンラインの話し合いで、私は1990年代からの路上生活者支援活動の変遷や、「路上」での雑誌販売を軸とするビッグイシューの活動、「路上脱出」というガイドの名称の意味について説明しました。

話し合いの結果、金沢での展覧会の会場に「本誌掲載記事内の表現に関するお詫びと補足、そして路上をあらためて考えていただくために」という文章を展覧会の会場と図録紹介のサイトに掲示していただくことになりました。以下がその全文です。

また、会場には『路上脱出・生活SOSガイド』の各地版もPDFをプリントして冊子化したものを置いていただけることになりました。

写真提供:本橋仁さん

写真提供:本橋仁さん

写真提供:本橋仁さん

写真提供:本橋仁さん

今回の対話が展覧会の展示物にも反映され、ガイドの活動を多くの方に知っていただく機会も作れたことになります。

誠実にご対応いただいた本橋さんと関係者の皆さま、協力してくださった迫川さん、井野さんに感謝いたします。ありがとうございました。

「路上、お邪魔ですか?」展は、9月19日から渋谷の松濤美術館に会場を移して開催されます。

渋谷でもぜひガイドの展示は続けてもらいたいと思い、現在、働きかけをおこなっているところです。

また、この機会に「路上」をテーマにした展覧会と、「路上」をフィールドにしてきたビッグイシューとのコラボも何らかの形でできればと考えています。

ぜひ皆さまもご注目ください。

 

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