生活保護費の違法減額。補償の前に亡くなる人も。「直ちに追加給付を」原告・弁護団が要求。
史上初の生活保護費「追加給付」
2013年~15年の生活保護基準大幅引き下げを違法とした昨年6月の最高裁判決を受け、厚生労働省は2月20日、減額分の一部補償を3月に始めると告示を出しました。
これにより、生活保護費を過去にさかのぼって追加給付するという前例のない取り組みが始まることになりました。追加給付の対象者は約300万人になると推計されています。
具体的な支給額は、生活扶助については大都市部の単身世帯で約10万円、高齢夫婦の世帯では約15万円になる見込みです(いずれも2013年8月~18年9月の全期間、制度を利用していた場合)。
また、生活扶助以外にも障害者加算、母子加算などの各種加算や期末一時扶助なども違法に削減されていたため、これらの減額分の一部も戻ってくることになります。例えば、障害者加算については2013年8月~2026年3月の全期間、居宅で制度を利用していた人は加算分だけで約9万円補償されることになります。
上野賢一郎厚労相は2月20日の記者会見で、追加のスケジュールについて「できる限り早期に対象となる方に支給させていただきたい」と述べ、(1)裁判の原告については3月以降、個別の状況を踏まえて支給する(2)原告以外の保護を利用中の世帯については、各自治体における準備状況に応じて順次支給を開始し、2026年度中の支給を想定している(3)現在は生活保護を利用していないが、該当期間に利用していた世帯については、本年夏ごろから申し出を受け付け、その後に各自治体の準備状況に応じて支給していくとの方針を示しました。
歴史的な追加給付ですが、原告側が求めていた被害の全面回復は実現していません。政府は減額された差額の全額を補償するのではなく、2013年にさかのぼって基準を再調整(再減額)するという尋常ではない手法を用いて、補償額を半分程度に値切りました。また、裁判の原告のみに慰労金的な性格の特別給付金を上乗せするとしています。
この決定に対し、法律家や法学研究者らからは「三権分立原則に違反している」「原告と原告以外で補償額に差をつけるのは生活保護法の無差別平等の原則に反する」との批判が巻き起こっています。
裁判の原告・弁護団・私を含む支援関係者でつくる「いのちのとりで裁判全国アクション」(以下、「全国アクション」)はあくまで全額の補償を求め、再提訴を視野に入れた不服審査請求運動を呼びかけています。
4月2日(木)には不服審査請求運動のキックオフ集会も開催されますので、ぜひご参加ください。詳細は下記画像をクリックしてください。
「いのちのとりで裁判」のこれまでの経緯については下記の記事を参照にしてください。
判決が確定していない原告は後回し?
問題だらけの追加給付ですが、さらに原告の中でも裁判の判決が確定している原告と確定していない原告との間で給付時期が異なり、確定していない原告については後回しにされかねない、という問題があることがわかってきました。
そこで3月24日、「いのちのとりで裁判全国アクション」は厚生労働省に対して、緊急の申し入れを行いました。

要求書を厚労省に提出する「全国アクション」の尾藤廣喜共同代表と各地の原告
要求内容は以下の4点です。要求書の全文はこちらのPDFをご覧ください。
【要求項目】
1 訴訟係属中の原告についても、判決が確定している原告と同様に、直ちに追加給付を行うこと。
2 原告側が控訴審で勝訴判決を得て、現在、最高裁判所に係属している訴訟について、上告受理申立てを取り下げること。
3 すべての対象者が漏れなく追加給付を受け、かつ、不服申立ての機会を保障されるよう、制度構築と周知を徹底するとともに、問題が生じた場合には、その都度、柔軟な運用改善を行うこと。
4 すべての生活保護利用者に対する真摯な謝罪、違法な保護基準改定に至る事実経過と原因の調査と解明、生活保護基準部会への当事者参加など、実効性ある再発防止策を講じること。
この日の厚労省との協議では、厚労省側からまだ判決が確定していない原告については、追加給付のうち裁判で争っている期間の分(形式的には数か月分)は判決確定後の支給になるが、大半については他の原告と同時期に支給されるとの説明がありました。
原告・弁護団からはなぜそのような煩雑な手続きをするのか、意味がわからないという声が相次ぎました。
弁護団からは、最高裁の判断が示されている以上、結果が覆ることはないのだから、いたずらに時間を稼いで判決を待つのではなく、厚労省自らが過去の違法な処分を取り消す「自庁取消」をすべきだとの意見も出ましたが、厚労省側は明確に回答しませんでした。
裁判で勝ったのに補償を受けられず亡くなった原告
「いのちのとりで裁判」福岡訴訟の弁護団長を務める高木健康弁護士は、この日の厚労省協議に福岡高裁での勝訴の「旗出し」写真を持って臨みました。

厚労省との協議が始まる前、福岡高裁での「旗出し」写真を手にアピールをする高木健康弁護士

2025年1月29日、福岡高裁前で撮られた「旗出し」写真。左側が原告団長の中島久恵さん
福岡訴訟では、昨年1月29日に控訴審の福岡高裁で原告が勝訴したものの、国が最高裁に上告受理を申し立てしたため、判決はまだ確定していません。
高木弁護士は厚労省の官僚に写真を見せながら、「ここに写っている原告団長の中島久恵さんは10年間、裁判を闘ってきたが、今年3月6日に亡くなられました。どれだけ無念だったか。福岡高裁での判決や最高裁での判決の後、すぐに被害救済がなされるべきではなかったのか。あなたがたが救済を遅らせているから、救済されることなく、亡くなってしまった。おかしくないですか。政府はすぐに方針を変えてください」と訴えました。
厚労省との協議のあとで行われた記者会見では、各地の原告や弁護団が発言しました。
北海道訴訟の原告の内田民江さんは「最高裁で国が間違っているという判断を受けたにもかかわらず、原告に対しても、生活保護を受けている人に対しても、きちんとした謝罪がまずない。給付をすることになっても、確定した原告と係争中の原告で差別をし、給付する金額を原告になってる人と原告になってない人とで差別をする。生活保護を受けて、生活が大変で苦労していったのはみんな同じだったはずなのに、区別をし、差別をしている」と述べた上で、「『早く死んでくれ。そしたら、その分自分たちは払うお金が少なくなるから』と言っているように私は聞こえました。もう。呆れるというか。情けない」と話されました。
原告の多くは高齢者であり、北海道の訴訟でも最高裁判決の後、すでに3人の原告が亡くなっているとのことです。
「世帯単位」の追加給付にこだわる厚労省。虐待・DVの被害者が補償されない可能性
この日の厚労省協議では、過去に対象期間に生活保護を利用していて、その後、廃止になった世帯への扱いについても議論になりました。
現在も生活保護を利用している世帯には各自治体からプッシュ型で追加給付が行われますが、すでに廃止になっている人たちは自ら自治体(生活保護を利用していた時の福祉事務所)に申し出をする必要があります。
「全国アクション」は、追加給付についての周知を徹底することを求め、厚労省は「インターネットだけでなく、ラジオや新聞などの媒体も活用して周知する」と約束しました。
また、追加給付が世帯単位で行われるという問題もあります。
生活保護を利用していた世帯の中で、虐待やDVなどの問題があった場合、被害者が避難するなどして、一部の世帯員が世帯から離脱するということがあります。しかし、追加給付は世帯単位で行われるため、加害者である世帯主に世帯員全員分の追加給付が支給され、被害者に補償が行きわたらないという問題が生じてしまう可能性があります。
そこで、「全国アクション」は、世帯員が世帯を離脱した場合には、個人単位で追加給付を行う運用にすべきである、少なくとも虐待・DVがある場合には自治体が個別に対応できるとの通知を出すべきである、と厚労省に迫りましたが、厚労省側はゼロ回答に終始しました。この問題については引き続き、追及をしていきます。
「全国アクション」共同代表の尾藤廣喜弁護士は、厚労省のこうした姿勢について「そもそも厚労省が違法な引き下げを行なって生じた被害なのだから、厚労省には一人残らず、万全に被害救済をおこなう義務がある。その自覚が完全に欠けているのではないか」と鋭く批判しました。
「命があるうちに補償を」「被害の全面回復を」という原告の声はいつになったら国に届くのでしょうか。厚労省に誠意ある対応を求めていきます。
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